姉の卒業旅行

 自分で旅行に行くのは、最高に楽しいが、私は近しい人が旅に出て文章や写真でその抑えきれない楽しさや熱気を伝えてくれることがとても楽しい。

 その人と自分が親しければ親しいほどに、体感型の旅行番組さながらなわくわくである。

 何より、とてつもなく楽しいはずの非日常の中で、自分を気にかけてくれたことが、共有せんとしてくれたことが、心を温かくさせる。

 姉が、親友とアジアに二週間、卒業旅行に行っているようで、アジアの熱気にあふれる写真がたくさん届いた。私も親友と卒業旅行に行ったが、体力もお金も少なく、国内の近場に落ち着いた。(それでも親友との二人旅は笑いありアクシデントあり、出会いありのそれはそれは楽しいものだった。)そんな私だから、アジアを二週間もまわると聞いたときは、ただただそのバイタリティーというか、行動力というか、思いっきりの良さに感心した。

 姉は、いつだってそうなのだ。私の信じている小さな世界を軽々と超えて、世界はこんなに広いと、その自由さで私に教えてくれる。

  楽しそうな食事風景や、街の様子、普通のパンフレットに載っているだけならば、ペラペラとめくってしまいそうな写真たちが、私を夢中にさせる。

 プラスチックのカラフルな椅子に、言葉は通じないのだろうがどことなく親近感のあるアジアの人々、体が芯から温まりそうなボリューム満点の現地料理。どれも東京にいては、本やテレビの映像としてしか知らなかったものたちが、姉の笑顔と一緒に映り込むことで、急速に現実感を帯びる。ああ、今日はボリュームたっぷりのベトナム料理に挑戦してみようか…ベトナム料理はなにがあるだろうか…と思わせる。

 親しい人とは不思議なものだ。自分は何百キロと離れていても、全く別の生活を生きていても、その人が伝えてくれる言葉だけで、まるで自分もその場そのときに生きているかのように感じられる。

 『夫婦になるということは、人生が2倍になることだ』と、誰かが言った。夫婦だけでなく、心を寄せられる友人や、兄弟姉妹、その関係に名を持たぬ様々な人々が、私の人生を何倍にも膨れさせていく。